「そういう考え方もあるが、最大限の余裕を見こんだ」アラスはしれっとした顔で答え、割れ鐘のような声で叫んだ。「ベリット、その場所に印をつけて、潜ってみろ。どのくらいの深さがあって、底がどうなってるか知っておきたい」
 ベリットは二つめの石が沈瑪沙 射頻瘦面槍んだ場所に印をつけてから、ためらう様子を見せた。
「レディ?セフレーニアに、うしろを向いているように言ってもらえませんか」その顔はまっ赤になっていた。
「もし誰か笑ったりしたら、その人は残る一生を蟇蛙《ひきがえる》として過ごすことになります」そう脅しておいてから、セフレーニアはくるりと湖に背を向けた。興味津々のフルートも同時にうしろを向かせる。
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 ベリットは服を脱ぎ、川獺《かわうそ》のように水の中に飛びこんだ。上がってきたのは一分ほどあとだった。湖の岸辺にいる者たちは、機敏な見習い騎士が水面に顔を出すまで、全員が息を止めて見守った。ベリットはふうっと息を吐き出し、水を跳ね飛ばした。
「深さは八フィートってところです、サー?アラス」筏の端につかまってベリットが報告した。「底には泥が堆積してて――少なくとも二フィートはありそうです。あまりいい状態じゃありません。水は茶色く濁ってます。手を顔の前に持ってきても、ほとんど周海媚 膠原抗老槍見えないくらいです」
「それを心配していたんだ」アラスがつぶやく。
「水は冷たいか」カルテンが叫んだ。
「ものすごく冷たいですよ」ベリットは歯の根も合わなかった。
「おれはそれを心配してたんだ」とカルテン。
「では諸君、水浴びの時間だ」アラスが言った。
 その日の午後はまことに不愉快に過ぎていった。ベリットが言ったとおり、水は冷たくて濁っており、やわらかな湖底は泥炭の泥に厚く覆われていた。
「手で泥を掘ろうなんて思うな」アラスが注意した。「足で探るんだ」
 だが何も見つからないまま、日が沈むころには全員が疲れきって、寒さに青ざめていた。
「決断の必要があるな」全員が身体を乾かして短衣《チュニック》と鎖帷子を身に着けると、スパーホークが渋い顔で言った。「いつまでもここにいるのは危険だ。シーカーはわれわれのだいたいの居場所を知っているから、臭跡をたどって追ってくるだろう。やつに見られたら、その瞬間にベーリオンの在処《ありか》がアザシュにもわかってしまう。それだけは何としても避けたい」
「そのとおりです」とセフレーニア。「シーカーが手下を集めて、それをここまで引き連れてくるには、多少の時間がかかるでしょう。それでもやはり、いつまでここに留まるか、期限を切っておいたほうがいいと思います」
「もう目の前なんですよ」カルテンが不満の声を上げる。
「見つけたベーリオンをすぐにアザシュに奪われたのでは、元も子もありません。わたしたちがここを離れれば、シーカーもこの場所から引き離すことができます。ベーリオンがある場所はもうわかっているのですから、危険がなくなっていいのです」
「明日の正午では」スパーホークが提案した。
「それ以上ここに留まるのは危険でしょうね」
「じゃあ決まりだ。明日の正午になったら、荷物をまとめてヴェンネの街に戻る。これまでの印象では、シーカーは街中にまで手下を率いてくることはないらしい。あの連中は目立つからな」
「船だ」焚《た》き火の炎に顔を照らされたアラスが声周海媚 膠原抗老槍を上げた。
「どこに」カルテンが宵闇《よいやみ》の迫る湖面に目を凝《こ》らす。
「そうじゃない。ヴェンネに戻ったら船を雇えばいい。シーカーはヴェンネまでおれたちの臭跡を追ってくるだろうが、水の上でにおいを追うわけにはいかんだろう。やつはヴェンネの外で、おれたちが出てくるまでじっと待っているはずだ。おれたちは安心してここに戻ってきて、ベーリオンを探すことができる」
「名案じゃないか、スパーホーク」とカルテン。
「どうでしょう」スパーホークはセフレーニアに尋ねた。「水の上を行けば、シーカーは追ってこられないでしょうか」
「そう思います」